薬物乱用の未然防止・再乱用防止の取組の成果と課題について
令和5年2月28日の一般質問の内容、薬物乱用の未然防止・再乱用防止の取組の成果と課題についてです。
喜田健児の問題意識
・再犯率が高いこと
・相談ができない空気感
・警察が取り締まるだと福祉につながらない
相談体制を充実させること、再犯しないように社会全体でフォローする体制が大事という趣旨で一般質問で取り上げました。
いつでも相談できる810番、ハート番ダイヤルの設置も提案しています。
実際の質問のやり取り
【質問】
1、社会を明るくする運動、(1)薬物乱用の未然防止・再乱用防止の取組の成果と課題についてです。
弁護士によると、近年、日本の犯罪件数は減少傾向で、覚醒剤使用等の薬物乱用者への接見件数は、ここ数年、全国的にも三重県でも減ってきていると言います。また、暴力団が関わっているのは3割程度で、7割は暴力団が関わっていない事案となってきているとも言っていました。川口議員が前回取り上げたオーバードーズ、市販薬の乱用も加わりました。明らかに、フェーズが変わったと言えるのではないでしょうか。
令和4年度三重県薬物乱用対策推進計画には、全国的には覚醒剤をはじめとする薬物事犯による検挙数は高い水準で推移し、我が国の薬物情勢は依然として、近年、大麻乱用、危険ドラッグ、MDMA等、多様化する乱用薬物の若年層への広がりが懸念される状況にあり、予断を許さない状況にある、と書いています。(実物を示す)この冊子に書いています。
しかし、この計画に書かれている事業内容に対して、薬物乱用者と関わる方々は現場と乖離しているという強い思い、意見があります。そこのところを質問で明らかにして、当事者支援に関わる現場との乖離をなくしていきたいと思います。
まずは、薬物乱用の未然防止と再乱用防止の取組の成果と課題についてお伺いしたいと思います。よろしくお願いします。
【医療保健部長】
薬物乱用の未然防止・再乱用防止の取組の成果と課題についてお答えいたします。
取組としましては、薬物乱用の未然防止、薬物依存症の治療・回復支援、関係機関と連携した取締の3本柱により実施しております。
未然防止の取組としては、保護司、学校薬剤師等531名を薬物乱用防止指導員として委嘱し、啓発活動を行っています。
具体的には、保健所と連携した「ダメ。ゼッタイ。」普及運動、麻薬、覚醒剤、大麻乱用防止運動といった街頭啓発や、不正なケシの除去を行うクリーンアップ運動などです。
また、特に若年層に対しては、民間団体や学校薬剤師と連携し、県内の小・中学校、高等学校の児童生徒を対象とした薬物乱用防止教室を実施し、薬物の危険性や医薬品の正しい使い方について啓発しております。
さらに、広く県民に対してFMラジオ等を活用した啓発も行っております。
一方、薬物については、一度やめた後も乱用を繰り返してしまうケースも多く、依存症を伴っている場合が少なくありません。その依存症からの回復には治療を行うとともに、様々な支援が必要となってきます。
治療が必要な場合への対応としては、国立病院機構榊原病院を薬物依存症治療拠点機関として指定するなど、専門治療が受けられる体制を整備するとともに、自助グループ等とも連携し、回復に向けた支援を行っています。
また、薬物依存症についての理解を深め、支援につなげるため、県民、当事者、家族、支援者向けの依存症フォーラムや相談支援機関、就労支援機関等に向けての講演会を実施しています。
加えて、当事者の家族がその対応に悩み、支援を必要としているケースが多いことから、依存症問題家族教室を実施しています。
さらに、関係機関が連携して当事者やその家族等を支えられるよう、県内各地域で依存症ネットワーク会議を開いております。このネットワークには、精神科医療機関、保健所、児童相談所、市町、障害者相談支援センター、警察、消防、保護司、保護観察所、刑務所など、治療、生活支援、更生の立場からあらゆる機関が参画しており、切れ目のない支援につなげております。
その中で、三重刑務所と他の関係機関が連携し、刑期中から対象者の相談対応を行うことで、刑期後にスムーズに支援につながった事例をこのネットワーク会議で共有したところです。
薬物を乱用する背景には、様々な心の悩みを抱えながら周囲の人に相談できず、薬で乗り切ろうとするケースも多く、こころの健康センターや各保健所で心の悩み全般の相談に応じております。
特に、依存症に係る医療的なアプローチが必要な場合には、依存症専門相談をこころの健康センターで実施しており、必要に応じて医療機関や支援機関へつなげております。
こうした取組の結果、例えば、県内の覚醒剤事犯検挙者数については、平成29年の99人から令和3年では77人となっており、減少傾向が続いております。また、覚醒剤事犯の再犯率についても、平成29年には62.6%であったものが、令和3年では50.6%と減少しております。
しかしながら、これまで啓発活動等を行ってきた中で、覚醒剤等の違法薬物の恐ろしさや犯罪としての反社会的側面を強調してきた傾向がございまして、そのこともあって、当事者やその家族等が相談することをためらい、そこから必要な支援に結びつかないケースもあるということも指摘されております。
今後は、啓発活動等の取組内容を再検討するとともに、相談体制の充実や支援に向けての関係機関との連携のさらなる強化を図ってまいります。
【質問】
ありがとうございました。様々な取組を聞かせていただきました。
私がお会いしてきた弁護士、保護司、更生保護団体の方々との認識が違うのは二つ目なんです。取締りの強化と厳正な処分のところが違うんです。薬物乱用者と関わる現場の考えと乖離している、この部分で少しやり取りをさせていただきたいと思います。
一見知事、知事は薬物に手を出しますか。廣田副知事、出しますか。服部副知事、出しますか。出さないですよね。ここにいる全ての人は、誰に聞いても薬物に手を出すという人はいないと思います。出す必要がない。だから、手を出す人のことに関心がいかないのだと思うんです。
ここが最大の課題であり、関心を寄せて施策を打っていないことが、薬物乱用者の再犯率、50.6%でしたっけ、下がったと言っていますけれども、でも、2人に1人は再犯しているわけです。そういう再犯者が減っていかない理由が、ここにあるんじゃないかなと思います。
薬物に逃げてしまったことを、その人の弱さだからと自己責任にして、その人の置かれている状況、環境などに目を向けていないし、思いをはせていない。
このスライドを見てください。(パネルを示す)先ほどもありましたけれども、再入所までへの期間は5年以内がほとんどで、60%は2年以内に刑務所に戻ってくるということです。
次のスライドです。(パネルを示す)満期出所者の約4割が帰るところがないというこの現実、ここをどう捉えて、どうしているのか。ピントが合っていないのではないかと思います。
再犯率を下げないと、薬物事犯は減らないということです。再乱用する人がいるから、そこに薬物市場ができてしまい、あの手この手で初犯に組み込まれてしまう少年少女がいると言えるのではないでしょうか。
一体どのような状況にいる人が手を出してしまうのか。なぜ薬物を求めてしまうのか。依存してしまうのか。その人がどのような状況、環境に置かれているのか。求めざるを得ない、依存せざるを得ない、その環境は何なのか。ここにいるみんなで想像力を働かせませんか。
社会の中で自己肯定感が低くなってしまった人、社会に希望すら持てずに諦めてしまった人、そこには障がい者をはじめとする差別や偏見、貧困が見えてきます。
SNSでつぶやいたら、気持ち落ち込んでない、気分の楽になる薬があるよって犯罪者が巧みに寄ってきて、弱さにつけ込まれて、つい手を出してしまう。または、つい手を出してしまった家族がいて、薬物が普通に家にあったりする。貧困で生活が追い込まれ、孤立し、1日で100万円が稼げるという情報に返信してしまい、巻き込まれてしまいます。
保護司も弁護士も、三重ダルクの方も、玄秀盛さんも、薬物に手を出す人の逃げや弱さという自己責任論で片づけてはいけないと言います。そうではないんだと。薬物乱用行為そのものだけしか見ずに、その行為の責任をその人個人に追及するだけなので、根本的な解決に至らないと言います。
このスライドを見てください。(パネルを示す)松阪保護司会が展開している薬物乱用防止教室の出だしのスライドです。薬物に手を出すと自分の体はどうなるのか、どれだけ怖いものなのかを植え付ける前に、犯罪を繰り返してしまうことをまず押さえています。
そして、次のスライドです。(パネルを示す)犯罪から更生するには様々な周りの支援が必要であることも伝えながら、現実は支援がなかなか受けられない社会の実態をリアルに子どもたちに伝えています。
私が出会った薬物乱用者の当事者の更生支援と社会を明るくする運動を展開する保護司の3人の方は、もう、1人も薬物に手を出してしまう人をつくりたくないという心の底から湧き出る思いで、学校に薬物乱用防止教室の必要性を訴えに行っています。そして、依頼があれば、学校との入念な打合せをして、子どもたちの家庭環境に配慮し、たった1人の子どもが抱える悩みに寄り添うなど、その学校の実情に合わせた内容に変更し、子どもたちの5年先を見据えて事業を展開しています。
三重ダルクの市川さんは、一次予防で、薬物の怖さと罪の重さだけを殊さら強調してマイナスイメージを植え付けてしまうと、家族に薬物乱用者がいたとしても、知り合いが薬物に手を出したとしても、先生や周りに相談できない状況をつくり出してしまう。社会が拒否したら、薬物に関わる人を頼ってしまい、悪い環境に戻ってしまうと警鐘を鳴らしています。
そう考えたときに、県の方針の厳正な処分、厳罰というのは相入れないものがあると思いませんか。三重県も、今般の社会情勢に応じて、各機関が連携して、その整備に入らないといけないと思います。いかがでしょうか。警察本部長にお伺いしたいと思います。
【警察本部長答弁】
警察としましては、法と証拠に基づいて、薬物事犯を含めた犯罪検挙に向けて対処しているところであります。
取締りを通じて薬物乱用防止に資する面があるものと考えておりますが、一方で、取締りのみで乱用者の抱える問題全てに対処できるわけではないと認識しておりますので、関係機関と緊密に連携しながら問題に対処していきたいと考えております。
【質問】
御答弁ありがとうございます。
いじめ、貧困、障がい、精神的虐待による社会的孤立、社会からの疎外感、排除されている人が自己治療的に薬物に頼ってしまい、検挙され、執行猶予のときにその人を支援するシステムがこの社会の中に十分に構築されているとは言えません。自己責任論が蔓延していて、自分から助けを求めないと支援はもらえない申請主義社会ですよね。
世界では薬物は非刑罰化の流れであり、国連は薬物乱用者を処罰するなという声明を出しています。処罰している国は、日本とアジアの1つの国ぐらいです。
薬物乱用者は訴える人がいませんので、刑法で裁かれるのではなく、特別法犯となります。警察は検挙だけであって、検察が処分を決めるから、処分というところはノータッチかもしれません。
この社会の中で薬物に手を出すしかなかった、その状況をつくったのが社会なのに、何で犯罪者扱いなんや、その認識はいかがなものか、ある意味、被害者ではないか、本人ではなく周りの人間が考えないといけないことやないかという意見があります。
警察が被害者を捕まえている。1回捕まえた人を2回も3回も4回も5回も繰り返し捕まえている。誰もが不幸なこんなこと、もうやめませんか。
そこで、810番、ハート番ダイヤルの設置を提案します。病気になったら119番、事件・事故は110番。心が病んでもう助けてというときにかける24時間対応の電話です。これで、薬物に手を出した人を保護するのです。
厚生労働省のよりそいホットラインという24時間対応の電話がありますが、知っている人はどれだけいるのでしょうか。これは10桁の電話番号で、覚えられない。知らないし、覚えられない、最悪です。三重県の薬物乱用防止の相談ダイヤルに電話をかけてくる人は、ほとんどいません。自己責任、検挙、厳罰がそうさせていると言えます。
このハート番ダイヤルで、世間の風潮を、個人の責任から社会で考えていかないといけないというものにシフトしていきます。
心の相談電話は幾つもあります。認定NPO法人チャイルドヘルプラインMIEネットワークのこどもほっとダイヤル、チャイルドライン、いのちの電話、LGBT相談電話、子ども110番など、このほかにもあると思いますが、そこをコーディネートする頭がいません。810番、ハート番がその頭になる。苦しくなったときに県民の誰もがハート番にかければ、様々な専門家や団体、医療、福祉につなげてもらい、その支援が受けられる。生きづらくなった子ども、大人の一点の光となると思います。
ただ、精神科、児童精神科の医療体制の整備は同時に必要不可欠なことですが、一見知事はその整備に乗り出しています。子どもを守り、社会全体で犯罪者を生まない三重県づくり、長い目で見れば様々な面でメリットがあると思います。必要な政策提案だと思いますが、どうでしょうか。
今、私の提案に対してジャッジをした人が、この執行部の皆さんの中にどれだけいるでしょうか。所管だから関係ないという無関心、できない理由を思い浮かべる、上から目線で眺める、これではこの議会はよくならない、県民のためにならない。そうじゃないかもしれません。そうじゃなかったら申し訳ないんですけれども、もしそれがあるとするならば、県民のためにならないと思うんです。
一見知事、810番の設置の御検討をよろしくお願いしたいと思います。よろしいですか。
【一見勝之知事】
人間は弱い生き物です。誰もが、いや、誰もがではないかもしれませんけど、死というのを考えたことがあるんじゃないかと思います。高度に精神構造を発達させた人類は、残念ながら自らを傷つけてしまって、自死をする生き物であります。でも、よく考えてください。高度に精神性を発達させているんです。そんな人は死んだらあきません。皆さんは誰かの大事な子どもであって、誰かの大事な親であって、誰かの大事な兄弟姉妹であります。あるいは、誰かの大事な恋人かもしれません。そんな人は死んだらあかん、そう思います。苦しい気持ちになる人、それは誰もそうです。そのときに相談ができるというのはとても大事です。
警察機関で5年間働いた私は、法に基づいて法を執行するということの重要さ、大事さも分かっているつもりです。ただ、罰だけでは人は動きません。今、日本に法律があるなら、それを守らなあかん。それが、ある意味抑止力になっているところもあるかもしれません。一定のところからでもその人に寄り添って、そして更生させる、それも大事だと思います。それが7月の黄色い羽根運動であります。
一つ一つ何ができるかを考えていく、それが、今回のみえ子どもまるごと支援パッケージが一つの答えであると思います。この答えは完全なものではありません。これからもいろんなものを変えていき、新しいものを追加していかなあきません。このパッケージは、赤ちゃんやちっちゃな子を守るためだけのものではありません。
国児学園も建て替えをします。この間も、国児学園の子どもたちの作品展に行ってきました。一生懸命、説明してくれました。本当に立派な作品です。三重県の子どもたち、そんな立派な作品を作っている子どもたちを、我々大人が見捨てたらあかんと思います。ちゃんとしたところで生活をしてほしい、ちゃんとしたところで学んでほしい、そう思います。
それは、国児学園の子どもたちだけではありません。三重県の子どもたち、成人になっていない人たち全員です。いや、成人になっても、我々三重県人で助け合っていく必要があると思っております。
電話のお話をいただきました。810番、非常にいいアイデアであると思います。一つ御批判を申し上げるとすると、119番、110番、海のもしもは118番、海上保安庁118番というのもございます。これだけ、一つ覚えておいていただければと思います。
私は、言葉が話せない方の思いをどうやってつないでいくかという、これを国土交通省でやっていたことがあります。電話リレーサービスというものであります。これはバリアフリーの一環として、私は国土交通省でやっておりました。なかなかハードルが高いんです。この電話番号を設置するときにも、電話会社がなかなかうんと言ってくれない。何とかならんやろうかと日本財団から相談をされて、その仕事もやらせていただきました。
新しく810番をつくるとなると、これはかなりハードルが高いと思います。一つこれは御提案ですけど、厚生労働省によりそいホットラインございますね、先ほどおっしゃった10桁の番号、これは別に10桁である必要ないと思いますので、810番がええかどうか御議論はあると思いますけど、短い番号にするというのもやり方だと思いますので、これを提案していくということではいかがかと思います。
何にもせんというのはよくない。したがって、厚労省にこの番号を変えてくれませんかと言いに行きましょうということを申し上げたいと思います。
【意見】
知事、ありがとうございました。
全ての子どもたちを豊かに育てるためには、たった1人を救うことだと、川口議員と共に玄秀盛さんから学びました。今、知事の愛のメッセージ、たった1人の生きづらい子どもに届くことを願いたいと思います。
社会的に弱い立場に置かれているたった1人を救うその過程で、必ずややるべきこと、物事の本質が見えてきて、100人を救う道筋ができる、ステレオタイプでは誰も救えないとの玄さんのこの視点、とても重要だと私は思います。